私の一番古い記憶は2歳の時で、多分3歳になる数ヵ月前~直前くらいだと思うんだけど、お父さんがまたずっと怒ってるからお母さん疲れてるな、笑ってほしいから何かお手伝いしようって、これならできるなと思って、お母さんに「おかま(炊飯器)のスイッチいれとくね!」って言って押したんだよね。それで、「うん、いいよー」って言われた。母はいいよーって、しなくていいよのつもりだったのかもしれないけど、私はありがとうって意味に受け取って手伝えたって勝手に嬉しくなっていたら、しばらくしてすごい剣幕で名前を呼ばれて、びっくりして台所に戻ると、「炊飯器空焚きになっちゃったじゃない!おうちが火事になったらどうするの!こんなに熱くなってるのよ!さわってみなさい!」って言われてあつあつの炊飯器に右手を突っ込まれて、びっくりしたし信じられないくらい痛いしぎゃーっと叫ぶように泣いたらおばあちゃんがすっ飛んできて「なにやってるの!」っておっきい声出して止めてくれた。でも火傷して手のひら全体が水ぶくれになってて、皮膚科に駆け込んで処置してもらった。季節は夏で、後日ガーゼや包帯をかえに皮膚科に行って帰ってきたら、庭に出てるビニールプールで姉が遊んでたから、入れないけど参加したくてじょうろでシャワー作ったりしてたら転びそうになって咄嗟にプールの中に利き手である右手をついてしまいびしょびしょにしてしまって、「きれいにしたばっかりなのに何やってるの!」って母に怒られて、元々はお母さんのせいじゃんって思ったのを言わずに飲み込んだこともセットで覚えてる。
詳細に覚えているのには理由があって、小6の時、中学校に上がる関係で担任が書類作ってる所に呼び出されて「一年生の時と今と、住所が違うけど合ってる?」って言われて、すっかり封印されてた別居してた記憶とか、犬を飼い始めたり子供が成長したりで(多分別居解消する時の条件でもあったんだろうけど)少し穏やかになってた父の、かつてのDVによって母がぼっこぼこにされてる記憶とか、顔がアザだらけになって片目があかなくなってるその母の顔とか、とにかく父の身体的暴力の強かった頃の記憶のついでに火傷の事も思い出したので、普通覚えてないくらい小さい頃の事だけど、かなり鮮明な映像と音声付きで思い出した。信じられなくて夢かと思ってしばらく固まってたんだけど書類が目の前にあるし、現実だなと思って「はい、合ってます」って答えた。
さすがにしばらく混乱したけど、人間何でも忘れるもんだな怖いなって感じた後で、無かったことにされるところだったし思い出せてよかったと思ったので、その記憶の頃よりは落ち着いてるけど相変わらず怒鳴るし暴力的な父はおいといて、母には何かのついでに「手の火傷の事も謝らないくせに」って言ったんだよね。母は普段、私は正しい、私が正義だ、父は悪だとすりこんでくるくせに、「謝ったわよ…」って言って逃げた。ねぇ私謝られた覚えないよ。伝わってなきゃ意味無くない?しかも2歳の時の事を私が覚えているはずがないからって、私がおばあちゃん子だからっておばあちゃんが吹き込んだんだと決めつけて悪者を増やして私に確認もとらずに攻撃的になってるし…。仕方無いから思い出した経緯も説明した。でもおばあちゃんを悪者にしたことは謝らなかった。二十歳を過ぎてから、お母さんから受けた虐待の事について改めて話してすっきりしておきたいって言って切り出して、思春期のぶっきらぼうな物言いじゃなくてちゃんと思い出した経緯も、詳細に覚えてることも、おばあちゃんのせいにされて嫌だったことも、伝わってないからちゃんと謝ってほしいことも、全部説明しなおして、謝ってもらったんだけど最後に「でもね、あんなことになると思ってなかったの、子供の皮膚が想像以上に薄くて、大人なら熱そうなお鍋の取っ手とかも一瞬さわって温度を確認できたりするじゃない?そのくらいで済むと思ってたの。だから虐待じゃないの。お母さんも傷つくから、もう二度と虐待って言わないで。」って言われて私の気持ちには結局蓋をされた。全部言い訳じゃん、私は全然すっきりしなかったし父は悪、母は正義、みたいに刷り込まれたけれどどちらも悪だった事、薄々分かっていたけど、想像以上だったって気付かされた。私の気持ちを受け止めに来たと見せかけて自分がすっきりしたかっただけ。私に「分かった、もう虐待とは言わないよ」って言わせてもやもやを押し付けてすっきりした顔で帰っていったのを見て、母親としての役割を期待するのはやめようと思った。そこできっぱりやめられたわけじゃないけど、だめなんだなって確認がとれた出来事だった。
自分が子育てしていると頻繁に思い出すんだよね。今ちょうど自分の子供が、私が火傷させられたくらいの時期に差し掛かる頃だし。確かにイライラさせられる時期だ。私も、旦那は忙しくて朝早いし夜遅いし、体の弱い妊婦だから引きこもりがちで昼間ずっと二人で缶詰で過ごしてると、ついペチンと手が出たりする日も、言っても伝わらないって分かってる事で必要以上に怒ってしまう日もあって、そんな事がある度同じようになっていないかと怖くなる。わざわざ怪我までさせようとは思わないけど。はやく2歳終わらないかなと思いつつ、はやくなんて無理だし子供の成長ははやいから、無事に2歳を終えられますようにって毎日毎日どこへともなく、自分自身に祈ってる。もっと丁寧にしてあげられたらいいのになって事いっぱいあるのにごめんねって思いながらの精一杯で、どこまで安心感や満足感を与えてあげられるかな。ずっとにこにこして大好きだよってだけ言えたらいいのになと思ったり、でも2歳児の育児なんてこんなもんだよねトラウマのせいであんまり過敏になるのも良くないよね、と思ったりしている。本当に、無事に2歳を乗り切ることができますように。